prologue

 

 スピーカーから隊長の声が聞こえる。全班突入せよ。確かにそう聞こえた。

 俺達はその声に従い、事前の作戦に沿って、手元のスイッチを押した。ドアの鍵に仕掛けられた、消音指向性高性能爆弾が爆発する。シュポン、という、サイダーのビンの蓋を開けたような音がして、ドアの鍵を吹き飛ばす。それを認識するかしないかという速さで、俺達はドアを開け、室内に突入した。自分で言うのもなんだが、完璧だ。

 先頭は俺、後ろに哲也と吾妻が続く。俺の役目は、ポイントマンだから。

 室内に入って、最初に見えたのは人。五人いて、全員が何が起こったか解らないという、悪く言えば間抜けな顔でこちらを見ている。そのうちの一人が、手に銃を持っているのも見えた。イスラエル製のウージーサブマシンガン……の、中共製コピー品。口径は九ミリだろうか?八ミリだろうか?七・六二ミリだろうか?

 そんな事を考えながらも、手に持ったコマンドゥは、確実に、その男を照準に合わせていた。武器を持っている場合は問答無用で射殺。持っていなければ出来る限り制圧。事前に決めていた事だ。いまさら意見など無い。

 引き金を引く。五・六ミリの銃弾が銃口から三発飛び出る。セレクターを三点バーストにセットしていたからだ。銃口から飛び出たライフル弾は、全て、中共製コピー品サブマシンガンを持った男に命中した。

 一発は肩、一発は右腕、一発は心臓。男は傷口から血を撒き散らしながら、後方に吹っ飛ぶ。壁に当たって、ずるずると崩れ落ちた。飛び散った体液――そのほとんどは鉄分を多く含んだ赤い液体――の末梢が俺にもかかる。無視する。フェイス・ガード着きのマスクのおかげで臭いを感じない。そのためか、直ぐにそれを完全に、意識の外に追い出せた。

 銃声は全て、コマンドゥに装着された特殊消音装置に吸収された。

 後ろの二人が入ってきて、残りの四人を制圧しようとする。まず、手前にいた二人の手首をひねり、手錠をかけ、ついでに鳩尾を殴って気絶させる。

 俺も、ちょうど目の前にいた男を同じ目に遭わせる。足の弾力を利用して跳躍し、男の眼前に迫ると、顔に掌低を浴びせ、同時に左腕を引っ張って床に引き倒し、右腕も後ろに回して手錠をかける。

 残った男が、やっと状況を把握し、後ろのドアへ逃げようとする。しかし、俺や吾妻が男を捉えようと走り出すより早く、哲也が手に持った銃を男に向ける。五・六ミリ弾が六発ほど連射され、男の体を貫く。下半身、主に足から血を吹きつつ、男は前に倒れる。外れた弾は後ろの壁に当たり、めり込んだ。ほとんど音を立てていない。偶然ではない。そういう設計の弾丸なのだ。貫通した弾もそうだった。吾妻が素早く駆け寄って、男の手に手錠をはめる。

 俺は傷の確認。傷はひどいが、出血量はそれほど多くない。奇跡的な確立だろう、大きな動脈が全く傷ついていないのだ。故に、緊急の治療は必要ないだろう。勿論、一日も二日もこのままで置いておいたら死んでしまうが。

 部屋の制圧は完了した。吾妻が本部へ報告していた。

「C班、制圧4、死亡1、C1制圧完了。直ちにC2へ向かいます」

 既に無線封鎖は解除している。計画通りに進んでいれば、既に監視室は占拠しているはずだ。

 そういえば、この建物はおかしな構造をしているな。監視室に外側から直通の戸がある。普通はこんな構造にしない。制圧してくれとでも言っているようなものだからだ。勿論、トラップが幾つもあるだろうが。

 いや、違うな。多分、この建物は、元々軍事施設ではなかったのだろう。だから、監視室などもとから考えられていなかったに違いない。それにしても警備室くらいありそうだが、そういう設計思想が完成する前の建物なのだろう。作戦前の写真と図面からも、それは判る。そういえば、趣のある――悪く言えば古臭い――建物だものな。

 そう考えたからこそ、室内を観察する余裕が生まれたのかもしれない。外から見れば多くがレンガ造りの、まぁ汚らしい建物だったが、室内もその通りだ。かざりっけも無いテーブルが一つと椅子が六脚置かれていた。既に倒れて、その一部は壊れてしまっているが。

 次に、下に倒れてるやつらを観察してみる。多少は戦闘訓練を受けているのかもしれないが、精鋭でないことだけはよく分かる。頭数だけ集めたんだろうか?無駄なことを。

「素雪、次へ突入するぞ」

 そんな風に物思いに耽っていると、哲也が呼んで来た。吾妻は既に、扉の横に着いている。

 俺は一応銃を確かめた。弾は残り二十七発。この内何発が人の体を貫くのだろう?

 扉の横に着く。哲也は手に非殺傷性グレネード――スタン・グレネードではなく、光とガスだけのタイプだ。音を出すわけにはいかない――持ち、俺に目配せを――眼なんて見えないから、そんなふうな動作を――してきた。分かっているさ。

 俺はドアの鍵とトラップを確かめる。両方とも掛かっていない。集音機と熱センサーを使って向うを確認すると、最低3人はいる。武装までは判断つかない。とりあえず、それを伝える。

「最低3人。使え」

 そう言うと、素早くドアを開ける。それで十分だ。ほとんど同時に哲也がグレネードを投げ込んだ。激しい光と同時に、煙が噴出している。俺達は中に滑り込んだ。

 さぁ、任務続行だ。

 

 

 

 

小説トップへ 次へ