防衛省/情報収集団/防衛省内通信171105/001A

 

宛:関係者各員

 

発:情報収集団首席幕僚

 

本文:

 

1・概要

 

 この報告書は、我が国の防衛力の現状を明記した物である。マスコミ向けの“化粧”等は一切行っていない為、関係者以外の閲覧を禁じる。

 

2・現状

 

 我が国の防衛力は、現在に於いて、概ね充分と呼ぶべき物を保持している。しかしながら、一部に不安要素があることも紛れも無い事実である為、改善が必要と思われる。

 詳細は、以下の二項から五稿に明記の事。

 

2A・周辺状況

 

 今現在、我が国は多数の同盟国・仮想敵国に囲まれた状態にある。元来より我が国の立地条件は、必然的に戦乱を伴う物であり、それが冷たいものにしろ熱いものにしろ、これを避けることは不可能である。

 よって、我が国の対応策としては、国民の保全を第一にしながらも我が国を巡って起こる戦乱に上手に介入し、両勢力を天秤に掛け、最大の利益を引き出すことが最も宜しい。

 以下に、我が国周辺の仮想敵国を明記する。尚、同盟国に於いては、完全に信用できる同盟国は自国以外に在り得ない為、割愛させて頂く。

 

2Aイ・ソヴィエト社会主義共和国連邦

 

 現時点に於いて、我が国の仮想敵国中正面戦闘能力では最も危険と思われる。しかしながら、ソヴィエト社会主義共和国連邦(以下ソ連)は、兵力の重点を首都モスクワの在る西方に置いており、極東方面に於いては旧式兵器を中心とした練度の低い戦闘部隊しか配備されていない。また、最近の政策も我が国に対して融和的なことから、当面の危険性は決して高くは無い。北海道・樺太方面に、それなりの戦力を配置するだけで、充分な対応と為ると思われる。

 極東方面に於けるこの国の兵力は、陸上兵力二十万以下であり、航空兵力ならびに海軍力は問題に為らない。空軍は、今や旧式化したMiG・Suの旧式戦闘機にSu27、MiG29等、ハード面では中程度の能力を持つが、ソフト面では我が国の七十年代のレヴェルにも達していない戦闘機が小数加えられているだけである。海軍は、元々弱小なソ連海軍の中でもさらに旧型の戦闘艦艇が数隻、寄せ集めのようにウラジオストクに係留されているだけである(衛星軌道より確認済み)。主力たる陸上戦力にしても、主力は、我が国に何故か熱狂的信者を有するT72C中戦車(国内辺境向け改造モデル)であり、一部T80及びT90も確認出来るものの、所詮は湾岸戦争で全くの無力を曝した質の悪い量産戦車の無意味とも取れる性能向上型であり、戦力と考える必要は無い。

 もっとも、これらの戦力の大半はソ連・中共国境に配備されていることから、ソ連は、我が国よりも寧ろ中共を脅威と考えている事が推測される。我が国にとって大した意味の無い想定だが、人民解放軍(中共軍)に対してならば、上記のような戦力も充分な物足りうると予想される。

 

2Aロ・中華人民共和国

 

 或る意味に於いて、ソ連よりも危険な国家であると断言可能。中華人民共和国(以下中共)は、歴史的に日本に敵対しており、また、現在もその姿勢を崩す様子は無い。加えて、第三次世界大戦に於いて、ソ連と並び我が国と正面兵力を交えている。そして、中共の国民の大部分を構成する漢人は、その性質上、過去の恨みを忘れぬ傾向にある。

 以上の点により、ソ連よりもむしろ中共の方が、危険性は高いと考えられる。

 しかしながら、その可能行動は極めて狭い。中共の正面兵力は、陸海空軍とも旧式化している。二〇〇五年から二〇〇六年までの間に行われた欧州からの技術移転により、一部兵装は戦前の最先端レヴェルにまで到達していると考えられるが、所詮は十年以上前の――それも、軍事技術の大発展が見られる第三次世界大戦を挟んだ十年以上前の技術である為、わが自衛隊の脅威と成り得ない。

 戦力は、人民解放軍を中心とする陸上戦力が二〇〇万人余り、海上戦力、航空戦力は共に三〇万人程度の人員を有する。しかしながら、海上戦力は欧州製のレーダーやミサイルをコピーした戦前水準の物であり、加えて技術力の低い中共で生産されている為、満足な性能など到底発揮出来ないであろうと推測される。スカイウォッチ・タイプのフェイズド・アレイ・レーダーを装備した新鋭艦も配備されてはいるが、性能は我が国の凡庸護衛艦にも劣り、長距離艦対空ミサイルの精度も低いと予想される。空軍も、一部精鋭を除けば、旧式のMiG21の劣化コピーを中心に編成されている為、自衛隊機の敵足り得ない。陸軍も、一部は近代化政策で強力ではあるが、それでも所詮はソ連製をベースとした防御力の低い使い捨て戦車や装甲車であり、攻撃力も、一撃の威力は高くとも命中率は低いと思われる。電子戦闘は、全軍を通じで粗末である。

 数が問題に成る陸軍にしても、それを輸送する体制は整っていないので、例え有事が発生しても、自衛隊機の対地目標に過ぎないと予想される。東風に代表とされる弾道弾は危険だが、我が国の対ミサイル防衛力を考えれば、ほぼ一〇〇パーセントの精度で撃墜可能と考えられる。

 

2Aハ・朝鮮民主主義人民共和国

 

 中共と同列の国家。ただし、規模自体は非常に小規模。また、国民の大半は餓えており、ソヴィエト・中共との団結で、またソヴィエト経由での日本との交易で、一応の食料は確保できているが、軍事に回せるだけのそれは一切無いと推測される。加えて、戦前に金日成・金正日体勢崩壊後の新体制は、軍事より内政を重んじる傾向に在る為(前回の核分裂反応兵器入手疑惑も、我が国及び米国より譲歩を引き出す為の条件だった可能性が高い)、軍事力は問題には為らない。

 戦力にしても、ソ連製の旧式兵器を僅かに備えている程度である為、問題にすらならない。そもそも、そこまで我が国と敵対してはいない。

 

2Aニ・大韓民国

 

 現在一応の同盟国であるが、戦後実施された在日外国人無差別法の実施により、大量の在日朝鮮人が帰国した為、我が国とは不仲に成っている。或る意味で、一触即発の雰囲気すら漂わせる危険な国家ともいえる。軍隊が近代化されている分、北朝鮮よりもよっぽど危険な国家と言える。

 戦力としては、対北朝鮮政策のため、陸上戦力六十万余りを主力として韓国軍を編制しているが、反面、北朝鮮や中共と同様、海上・航空戦力は規模が小さい。海上戦力は、フリゲート艦を主力とするトップヘヴィー気味な戦闘艦艇を少数と、湾岸警備艇を多数保持する。もっとも、北朝鮮政策としては湾岸警備艇で必要充分であり、わざわざ新型のイージス艦を求めている理由は不明である。当然、航空母艦及び原子力潜水艦を求める意味も理解しかねる。航空戦力は、F5、F16、F15Kを主力とする強力と呼びうる物を保持しているが、仮想的を引き合いに出すならばF15K等は不必要に強力と思われる。

 

2Aホ・中華民国

 

 旧台湾であり、現在は極東に於ける我が国唯一の同盟国といっても過言では無い。とはいえ、教科書等に南京大虐殺を肯定する文章が見受けられるなど(注釈として、正しく無い可能性も有る物として断りを入れてはいる)、どちらに転ぶか分からない性質を持った国家ではある。

 軍事力は、陸海空軍ともバランスの取れた装備・人数である。とはいえ、強大な中共と向かい合う為、やや過剰な兵力と言える。しかしながら、その軍が装備する兵器の大半は、日本が輸出、若しくは中共でライセンス生産を行った物であり、日本にとってはプラスに為る。

 

2Aヘ・アメリカ合衆国

 

 我が国と長い関係を持つ同盟国であるが、戦後、賠償金問題などで揉め切っている為、潜在的敵対意思は無いとは断言できない。

 軍事力は、大戦終結後の反戦的世論で大分弱体化したとは言え、アメリカ軍は未だに世界最強の軍隊であり、万が一戦争になった場合も、防御に徹底する必要が出てくると考えられる。もっともこの場合、日本と同様アメリカとは関係が悪化している欧州諸国と同盟を組める可能性が高い。

 

 

2B・その他の状況

 

 その他の状況として、欧州・中東・南米・アフリカが挙げられるが、三ページにて詳細説明させて頂く。

 

3・我が国の防衛状況

 

 現在我が国の防衛費は十兆円を越えているが、GDPに対する値は二パーセントを下回り、国防費に対する値こそ大きいものの、それは我が国の政府が夜警国家に近い小さな政府である為である。

 とは言え、全体的に見れば、我が国の防衛費はまだ不充分な状態であり、場合によってはGDPの三パーセント程度まで引き上げる必要すら生じる。日本の防衛力の主力、自衛隊は、総人員四十万人以上(即応予備自衛官を含めれば六十万以上)に達する大規模組織であるが、我が国の規模から考えると、寧ろ小規模な軍隊と言える。

 

3A・陸上防衛力

 

人員:約二〇万人(即応予備自衛官を加えれば三十万以上)

装備

 戦車   :約一〇〇〇輌

 火砲   :約一五〇〇門

 装輪装甲車:約三〇〇〇輌(*軽装甲機動車・高機動車を含まず)

 装軌装甲車:約五〇〇輌

 重AS  :約三〇〇〇機

 

 我が国は、基本として専守防衛政策の防衛力を持っている為、陸上戦力は、水際での防衛を主にしている。例外として、統幕直轄の第1から第3緊急展開団が海外で言う海兵隊の能力を持っているが、限定的な攻撃力であり、有事の場合、初期に於いては敵の攪乱程度にしか用いることは不可能を思われる。

 

3B・海上防衛力

 

人員:約十万人

装備

 航空護衛艦    :四隻

 ヘリ搭載護衛艦  :四隻

 対空ミサイル護衛艦:一四隻

 汎用護衛艦    :三六隻

 航空機      :約五六〇機

 

3C・航空防衛力

 

人員:八万人

装備

 戦闘機    :二五六機

 支援戦闘機  :三二二機

 支援機    :二七機

 空中給油機  :一〇機

 早期警戒管制機:七機

 

3D・その他の防衛力

 

 警察及びその他機関の特殊部隊が少数存在するが、戦力としては数えられない。

 

4・動向

 

 今後の傾向としては、陸上戦力は、戦車は現在の数量を維持、山地と都市部の多い我が国の国土に合ったASの充実を目指す。海上戦力はやはり現状を維持、護衛艦と潜水艦の更新を続ける。空自は、旧式機の入れ替えを進め、FV2Aの割合をさらに増やす。

 我が国周囲の動向としては、どの国も軍拡に走っていると評せざるを得ない。顕著な例としては、中共は国防費を公開しているだけで前年の十パーセント近く引き上げており、対して中国も、三パーセントの上昇を見せている。

 

5・対応及び結論

 

 周囲の戦力は、数的な上では我が国を絶倫しているが、兵器の性能・兵器生産能力・開発能力に於いて、我が国は周辺国を超絶している為、少なくともあと十年は、我が国の防衛力、防衛のみを考えるなら、現状のままで必要充分と思われる。

 しかしながら、防衛力とは十年後、二十年後を範疇に入れながら組み立てるものであり、十年後に充分だからと満足する訳にはいかないと思われる。よって、毎年滞りなく充分な防衛力の増強を行うべきです。

 

情報収集団首席幕僚

霧島未来華二等陸佐

 

防衛省/情報収集団/防衛省内通信171105/001A

 

 

 

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