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2017年 9月20日
「遅れました」
本部の置かれている建物の門をくぐり、素雪は最初にそう言った。当然の行為だった。そういってよい時間になっていた。
「遅いぞ」
だから、ターネスのこの言葉も当然だ。
「ええ。……哲也は?」
素雪は狭い玄関内に自分とターネスしかいないのをいいことに、それなりに砕けた言葉で訊いた。
「まだだ」
ターネスは、一緒ではないのか? と言いたげに言った。
「ええ。途中で分かれました」
「ふむ……。あいつにも伝えたんだがな」
ターネスは何かを考えるように右手で顎を撫でた。
「ああ、あいつに通信をした時――」
ターネスは渋い表情をして言う。それを見て、素雪はターネスの言おうとしていることが解ったような気がした。。
「なにやら後ろに女の声がしたんだ」
「でしょうね」
素雪は小さくシャイセと呟いた。こんなことだろうと思っていたけどな。ちくしょう、作戦に影響を及ぼすんじゃないぞ。
「まぁ、いつものことですよ」
「作戦前だ。許してやるさ」
ターネスは寛容な態度だった。これもまた、当然だろうな。素雪は思った。人間の下半身を無視して戦争をさせた場合、どんな悪い事態に陥るかわかったものではない。普通の市街地が戦場になった場合、発生する悲劇の中のトップに常に強姦が入っているのがその証左だ。殺人で高ぶった兵士はたいていが女子供に容赦が無い。
だから、軍隊が慰安婦を雇うのは当然の行為なのだ。むしろそれを忘れるほうが恐ろしい事態になる。例えば旧日本軍が慰安婦を雇っていたが、これは当時の軍隊としては非常に進んだ行動だ。同じ時代ソ連は、その手の役割を現地の住民に無償で任せていた。つまり、兵に強姦と略奪を推奨したのだ(日本軍は朝鮮人を慰安婦として強制的に徴用したとされているが、現実は現地の朝鮮人が金儲けの為に人を集めて軍に売っただけだ。それに、慰安婦の給料は将軍並みに高給だった)。
いや、だからどうだと言う話ではないが。
「ああ、そういえば素雪」
ターネスは話題を変えるべく言った。
「はい」
「人は遣らなくていいのか?」
素雪は一瞬戸惑い、自分から血のにおいがするのを思い出した。流石だな。同時に思った。ターネスは素雪から発せられる血のにおいから、素雪に何があったのかを判断し、厄介な事態の場合はその解決の為に何をすれば良いかを即座に判断して見せたのだ。伊達に特殊部隊の指揮官などやっていない。
素雪とラインが実際殺したのは四人だった。路地裏に誘い込み、一気に殺した。ラインが二人、素雪が二人だった。二人とも片方をナイフで、もう片方を銃で殺していた。だから、素雪の服には血がついていたのだ。一応布を被っていたし、やむを得ず体についた血もある程度は落としたが、やはり完全に落とせるものではない。調べれば幾らか残っているだろうと思われる。
「ええ。死体は片付けました」
素雪はターネスに婉曲で必要ないと言った。片付けたのはラインの部下だった。彼らは手馴れており(素雪は何故かを問わなかった。傭兵家業には、時にそういう技能が必要だと思ったからだ)、死体を直ぐにどこかに持ち去った。その中、オッドフィールド伍長――でなくて特務曹長が話しかけてきた。
お久しぶりです、中隊長殿。こちらはお任せください。
「………」
「何が楽しいんだ?」
素雪は自分の口元が歪んでいたことに気付いた。直ぐに顔を無表情にする。彼が普段から無愛想なのは性格というか性質だが、彼自身、人前で感情を曝すという行動を嫌悪していた。彼自身ですら理由は解らなかった。
「いえ」
素雪は軽く返した。そう、本当に何が楽しいんだろう?
「……まぁいいさ」
これはターネスの口癖だな。素雪は思った。
「問題は哲也だが……」
ターネスがそういった時、入り口の扉が勢い良く開いた。息を切らせながら哲也が入ってくる。
「遅れました」
「遅い」
「遅い」
哲也の言葉に素雪とターネスが同時に返す。哲也はうっと詰る。
「ふん、まぁいいさ」
ターネスは言うと、二人を手で招いた。奥の扉に歩いていく。素雪はその時になって初めて、玄関で立ち話などという情け無い行動をしていたことに気付いた。その忸怩たる思いを誤魔化す為、哲也を睨みつける。
「まったく」
「な、何だよ」
哲也は慌てた様子で答えた。やましいことがあるのはみえみえだった。よく見なくても分かる。髪は濡れていたし、体全体から石鹸の香りが漂っていた。まぁ、礼節を知る素雪やターネスは追求することはなかった。無意識の非難はするが。
「ターネス三佐は何も言わなかったから、別にいいけど。勝手にどこかに行くな」
「悪かったよ。あれは」
こんなところで逢うなんて思わなかったんだよ。哲也は心中で呟く。
「さぁ、行くぞ。作戦だ」
「おぅ」
素雪と哲也はターネスに続いた。
玄関からドアを二回通過し、隠しドアを一回開け、ゆるいカーブを描くやや下向きに傾いた長い通路を抜け、電子錠の付いた鋼鉄製の厳重なドアを開けると、そこが作戦室になっていた。非常にこだわった造りだが、実際はあまり意味の無い構造とも言える。この場所が露呈し攻められるようなことがあれば、それで終わりだからだ。つまりは、国費を盛大に無駄使いしただけなのだろう。まぁ、趣味の世界と言える。大人と子供の違いは使うお金の金額だけ。素雪は昔聞いたそんな台詞を思い出した。
「で、あるからして――」
ターネスは高校の世界史や古典の先生風の口調で作戦を説明する。正面にあるホワイトボードには、作戦の概略が書き込まれている。簡単な図の横に、行う行動が順を追って書かれている。もちろん、日本語で。
第4小隊の隊員約三十名は、大人しく話を聞いている。学校の教室程度の広さを持つ空間に運び込まれた、安っぽいスティール机と椅子が、シュールな世界を現実へ繋ぎ止めているように思える。その作戦説明の様子は、どこにでもある公立高校の中小部活のミーティングルームを彷彿とさせた。しかし、最新鋭の特殊部隊の実体などこんなものさと思えば、さほど異様な光景とも思えない。
「とにかく、我々の目標はここだ」
ターネスは手に持ったレーザーポインター(銃の下に付けるヤツではなく、大学の講義などに使用されるものだ)でホワイトボードに描かれた図の中心、四角が描いてある部分を示した。
「敵の本拠地……とでも言うのか? とにかく、テロリストの指導者がいるのは間違いなくここだ。これは、確実な情報だ。内通者からも確認されている」
そういった後、
「ああ、内通者の信用は充分だ。何度か確認したが、大丈夫だろう」
もちろん確認とは、お前は信用できるのかと直接聞いたわけでは無い。カマを掛けてみたり、もしくは別の内通者を使って探らせたりしたということだ。
「敵の本拠地――民家に擬装しているが――はこの小さな村の中心にある。大きさは十メートル四方程度。ただし、それは表の姿だ」
ターネスはそこで言葉を切ると、その図の横の図を指した。細い線が縦横無尽に走っており、所々点が打ってある。その点の横には、“出口”やら“トラップ(落とし穴)”やら書いてある。
「地下はこのように巨大な空間が広がっている。まるでモグラの穴だな。穴の大きさは人一人が腰をかがめて何とか通れるほどだが、その全長は一キロメートルを超すかもしれん。つまり、敵指導者は地下に潜っていることになる」
ターネスが説明する。よくあることだな。隊員たちは思っていた。
東南アジアのゲリラたちが集落の地下に巨大な空洞を築くのは、真新しいことではない。古くは一九六〇年代、ヴェトナム戦争から頻繁に活用されている(戦争の歴史を紐解けば、似たような手段はもっと多用されているはずだ)。
そして、今の時代になってもその施設は有効だ。ブービートラップは人間の眼以外に発見方法が無いし、解除方法も人間の手に頼るのが常套だ。そして、これは非常にミスの多い手段でもある。また、あちこちに作られた蛸壺や欺瞞兵舎の中に潜む敵兵も、最新の索敵機器を使用してすら、確実に発見できるわけではない。ジャングルの中は敵味方が入り混じっており、大規模な爆撃や重兵器による掃討作戦が行えないことも、これの有用性に一役買っている。
つまりは、こういう類の基地は非常に危険だということだ。何重にも張り巡らされたブービートラップ、何処からともなく襲い掛かってくる敵。ヴェトナム戦争中には、精神をやられて後送される兵士が多かったというが、当然の話だ(もちろんその兵士たちのほとんどが、緊急に徴兵された、ついこのあいだまではコンクリートジャングルの中で生活していた若者だということも影響している)。
もちろん、ターネスだってその程度知っているのだろう。彼はSAS時代、南米のジャングルに赴いたことがあるそうだ(英国の対アルゼンチン関係が悪かったからだ)。
しかし、同時に第4小隊を信用してもいる。考えてみれば、何処からともなく敵が現れ、あちらこちらにブービートラップが仕掛けてある状況というのは、第4小隊が常に仮想戦場としていた市街地と同じようなものではないか。ならば、何を恐れる必要があるというのだ。訓練どおりにやればいいだけだ。
「よって、我々はモグラを追い詰めて捕まえる」
ターネスは断言するように言った。もちろん、奇抜な行動などではない。市街戦の常套手段といってもいいだろう。土地を稼ぎ、戦線のようなものを張り、敵を追い詰め、殲滅する。
「敵の穴倉の出口は無数にあるが、そのうちほとんどは最初に爆砕する。突入ルートは――」
レーザーポインターの光が忙しげに動く。
「ここ、ここ、ここ、それとここ。四箇所だな。まぁ、少ないほうだろう」
そう言うと、次に四つの穴を順に指す。上にあるのは建物なので、比較的主要な出入り口なのだろう。
「突入ルートに沿って順々に出口を爆砕し、この四箇所で張る。中にガスを流し込んで殲滅する。もちろん、ガス封じように何箇所かは水が張ってあるが――」
そう言うと、今度は水とかかれた場所を指し示してゆく。
「これで全部だな。どうも後先考えずどんどん増設していったらしくてな、あんまりガス封じの水が役立ってないんだ。で、調べた結果この四箇所にガスを放り込んだだけで充分基地全体に行き渡るらしい」
隊員たちの中から呆れたような溜息が漏れる。
「よって、我々は十の方向から浸透戦術で接近する。後、集合して四つの出入り口を押さえ、ガスを放り込んで内部を制圧。敵の首謀者は欲しいが……まぁ、可能な限り捕らえる。後の処理は現地の警官にまかせ、直ちに撤退。日本で休む。いいな」
ターネスが言ったのは常套的な戦術だった。分進合撃、浸透戦術と言い換えるのも適切な進撃方法だ。戦力を小分けにして進撃し、敵前で集合して戦闘をする。これによって、大部隊で移動するよりも発見される可能性が減るし、万が一にも一部が撃破されたとしても、全体の戦力低下は低くなる。
特殊部隊においても、常用される戦法である。微妙に意味が違うが、特殊部隊が建物に突入する時、正面玄関からだけ突入することはまず無い。屋上、窓、その他の多方向から一斉に突入するだろう。
今回も似たようなものだった。つまりは、対応を遅らせようというのだ。一点からのみの攻撃であれば、そこに戦力を集中して防げばいい。しかし、同時多方向となれば話は別だ。少ない戦力をどう割り振るか、前にいる味方を後ろに下げていいものか、とにかく攻撃されたほうは迷う。そして、たとえ迷わなくともミスは犯すだろう。これが狙いだ。敵に対応する間を与えず制圧する。特殊部隊の戦い方だった(前に《北》で第4小隊が行ったのも同種のものだ)。
そして合流し、敵の出入り口を吹き飛ばしながら、一際大きな四つの出入り口へ向かう。四つの出入り口に着いたら一斉にガスを放り込み、一気に撤退。後は現地任せ。
この辺も間違った行動ではないのだろう(本当ならば戦闘ヘリコプターの翼下に装着された対地ロケットやドラム缶のような形をした燃料気化爆弾、もしくは攻撃機や爆撃機から投下される地中貫通二〇〇〇ポンド爆弾で面制圧してしまいたいところだが、隠密作戦では到底叶うことではない)。最後を現地任せにするところなどいかにも無責任に思えるが、まぁ、地下道の中をいちいち漁って敵を片付けるなど特殊部隊の仕事ではない。
最後に日本に帰って休むというのは、本気なのか冗談なのか迷うところだ。休息というのも軍隊では(自衛隊は軍隊では無いという詭弁はこの際おいておいて)、有事に備えて体力を養うという類の任務の一種だからだ。しかし、わざわざ言うことでもないので、やっぱり冗談なのだろう。
「よし、じゃあ質問はあるか?」
幾つか、基本的な戦術に関する質問が挙がった。ターネスはそれにいちいち答える。
「以上か?」
誰も何も言わない。ただ、黙って頷くのみ。
「よし、では解散。作戦開始は明日の〇四〇〇時だ。交戦規則は通常どおりだが、まぁ、一応厳守は義務付けておく。装備はB1で、アームスーツの使用はA班とF班だ。集合は〇二〇〇時。全員しっかりと休息しておくように」
自分の部屋に戻ってきた素雪は、とりあえずシャワーを浴び、ベッドに横になった。疲れがどっと出てくる。いくら現役特殊部隊員でも、人を殺すのは体力と精神力を使うことなのだ。
「ふぅ……」
ベッドに横たわったまま、溜息を吐くように息を吐く。
「不味いな。この程度で疲れるなんて」
独り言をぼやく。日本に来るまでは、この程度日常茶飯事だったのに。こんなことで疲れるなんて、情けない。
素雪が眠りに向かいながらそんなことを思っていると、携帯が鳴った。着信音はベートーベン第9交響曲“喜びの歌”。
「クラシック? 誰だっけな」
素雪は着信音を聞きながら考えた。彼は相手の番号によって着信音を変えているが、第9を誰に設定したか思い出せなかった。
しばらく携帯を取らず、誰だったか考える。そして唐突に、思い出した。
「あ……いけない」
素雪は慌てて携帯を取り、ボタンを押した。
「はい」
「や、久しぶり」
流暢な日本語が聞こえた。中性的な、青年のような声だ。
「カイト、何か?」
素雪は電話の向うにいる、古い友人に訊いた。
「あ、その言い方は酷いな。前に東南アジア関係の情報を伝えてあげたのは俺なのに」
「ああ、それには感謝してる。どうも」
素雪は短く言った。
「それで、何?」
「………」
友人の少年――カイトは、憮然とした表情を受話器の無効から漂わせた。
「いいよ。で、どうなんだ? ヴェトナムの空気は?」
カイトは何もかも諦めたように言うと、諧謔を多分に含んだ調子で訊いた。
「お見通しか」
「『情報と言うのは紙に垂らしたインクだ。どんなに上手く纏めても、絶対どこかから洩れる』って言葉知ってる?」
「なんだっけ、それ?」
「いや、俺も出展は知らん」
素雪はさらりと言った。素雪は溜息を吐いてみせる。
「で、何なんだよ。まさか冷やかす為に電話したわけでもないんだろ」
「もちろんだとも」
カイトは、魚とは水中にいるものなのだよとでも言うような態度で言った。
「お前、自分が誰と戦ってるのか解ってるか?」
「東南アジアのイスラム原理主義テロリスト……という情報だが?」
「まぁ、間違っちゃいない」
どういうことだ、と素雪は訊いた。
「質の良い教官が雇われている」
「ルミエラ神父はそんなことは……」
「最新の情報なんだ」
カイトは素雪の言葉を途中で遮った。
「防衛省情報本部回りの情報じゃあお前らには届かないだろ」
「いや……それはどうかな? うちは結構情報回り速いよ」
素雪は心の中で、川内一佐と浅丘二佐が友人だからね、と付け加える。
「そうか? まぁいいさ。聞けよ」
カイトはそう断って、続ける。
「その教官は、元ロシア特殊部隊の精鋭だ。同じく元ロシア特殊部隊の部下を一個小隊ほど引き連れている」
「本当か?」
素雪はいぶかしむように訊いた。カイトの情報は、値段は高いが精度が高かったが、それでも俄かに信じ難い話だった。
「俺だって最初に手に入れたときは驚いたさ。調べてみたけど、どんな男かは解らない。ただ、有能な男だろうということは判明している」
そう言うと、ぺらぺらと紙をめくるような音が聞こえた。
「ソ連がアフガンとイラクに侵攻したときに、活躍した記録がある。当時は二十歳」
「大した男だな」
素雪は呆れたように言った。カイトは心中で、それはお前もだろうと言った。いや、俺だって似たようなものか。
「教官としては、おそらく有能だろう。気を付けろよ」
「大した危険にはならないと思う。就役したの、最近だろ?」
素雪の言葉に、カイトは驚いたように言う。
「流石だな」
「当然さ。お前が今頃になって情報伝えてくるって事は、最近教官になったからだ、ってことだろう」
「いやいや、なかなかの観察力だよ、ヴァレンシュタイン大尉」
「よく言うね、カイトヴェルグ大尉」
互いに古い呼び名で呼び合う。受話器の向うから、くすくすという笑い声が聞こえてきた。
「懐かしいな。ああ、ちなみに俺は、今は少佐だ」
「それは失礼致しました、少佐殿」
諧謔を知る素雪も、いかにも軍人チックな口調で応じる。もっとも、諧謔と言うよりは揶揄を多分に含んだ口調だった。
「それで、それで少佐、他に何か危険なことは?」
「それくらいだよ。とにかく気を付けろ。教官になってから一ヶ月も経っていないとの情報だが、彼独自の部下……一個小隊分だが、精鋭だぞ」
「ああ、分かった。ありがとう」
素雪は例を言った。カイトはどう致しましてと言った。
「ああ、それから」
「どうした?」
素雪はにこりとして(いや、電話の向うだからそんな感じで)言った。
「今度日本に行くことになった。まぁ、寄るよ」
「へぇ……。じゃあ、なんか用意しておこうか?」
素雪が訊くと、カイトはうんと答えた。
「日本独自のもの頼むよ。俺も、今いる場所の名物持ってくからさ」
「楽しみに待ってることにしようか」
素雪はにこりとして言った。
「ああ。頼むぜ、死ぬなよ」
「まさか」
素雪は冗談交じりで言った。もちろん、死ぬ気など無いということは本気だ。
「じゃあな」
「ああ、切るぞ」
携帯電話を耳から離し、通話を切る。画面は料金を表示する画面になり、やがて待ち受け画面に戻った。刀を映した画像だった。完璧に、素雪の趣味だ。“男に生まれたならば、威力の強い銃、良く切れる刃物に憧れぬことはあるまい”ということだった。
「ふぅ……」
素雪は疲れたように息を吐いた。いや、実際やや疲れていた。良いことと悪いことを同時に聞かされたからだ。少なくとも、一個小隊が精鋭だと言うことだ。一個小隊、微妙だ。
「どうすべきかな」
素雪は考えた。ターネス三佐に言うか? いや、どうせ川内一佐から通信が届いているはずだ。ならば、何か対抗策を考えているだろう。
「じゃあ、俺が何かする必要は無いな」
素雪はひとりごちた。そう、俺がやるべきは命令に従うことだ。敵を捕縛し、殲滅する。それ以外はする必要が無い。
「それで終わりだろう。失敗しなければいい話だ」